2023年2月アーカイブ

 北鮮からミサイルがバンバン飛んで来ます。漁業関係者の方々には申し訳ないですが、もう慣れました。国際社会は、ビビった犬ほどよく吠える理屈をよく理解してますが、飛び回るハエも度が過ぎると叩き潰されるというものです。

 さて、そんな不愉快な話は置いといて、2冊目のお話します。

 ちょっと前に「100万回死んだ猫」という本が話題になりました。わが家にもあります。図書館で本を探す人が覚え間違えて言った本のタイトルを集めた本ですが、実に秀逸で爆笑ものです。
「とんでもなくクリスタル」「わたしを探さないで」「下町のロボット」「蚊にピアス」
「おい桐島、お前部活やめるのか?」「人生が片付くときめきの魔法」「フォカッチャの『バカロマン』」「ねじ曲がったクロマニョンみたいな名前の村上春樹の本」...kokushikan.jpg

 その間違いタイトルの中のひとつ「国士舘殺人事件」がありました。これだと大学キャンパスを舞台にした青春ミステリーの雰囲気ですが、正しくは「黒死館殺人事件」です。

 およそ私がこれまでに読んだ本の中で、最も読みにくい、読み進めるのが苦痛という作品のひとつでした。もうね、大学時代のいろんな教科書の方がよほどすらすらと頭に入ってきましたよ。

 最初、綾辻行人のいわゆる「館シリーズ」のひとつかと思いましたがそうではなく、黒死館はもっと古い戦前の作品です。それがミステリー3大奇書のひとつとして現代でもその名を馳せているのです。作者は小栗虫太郎という、もうこの名前からしてただものではない感が漂います。

 神奈川県の大きなお城のような洋館で外国人女性が毒殺されます。死体は怪しく発光してました。オカルティックな雰囲気の中で物語は始まります。

 この作品の最大の特徴は、いわゆる「衒学趣向」つまり、やたら専門的知識をひけらかすことです。探偵役の人物は法水麟太郎といいますが、このおっさん、とにかくケッタイな知識が豊富で、容疑者の尋問や自分の推理を説明する長い長いセリフの中で、古今東西のいろんな学術分野の専門用語や、文献の説明を延々と引用します。その範疇たるや、文学、医学、薬学、物理学、天文学、心理学、犯罪学、歴史、宗教、暗号、その他極めて広範囲におよびます。
「〇〇といえば、何世紀に〇〇国で〇〇が著した、〇〇全書の何巻にこんな記述がある...」

20230225_105637468_iOS.jpg すべてこんな調子で、普通の人ならばその人生でまず遭遇することのない、極めてマニアックな知識が全編に綴られていきます。本当に歴史上そんな文献や法則・理論が存在したのか、はたまた作者が勝手に創作したフィクションなのかも読者には判別できません。しかも、その説明がやたら長い。ほとんどのページの見開きが、1行目最初から最終行の最後までびっしり文字で埋まってて、すべて探偵法水の演説のような長セリフです。読むのにやたら時間がかかり、まあしんどかったこと。

 衒学(ペダンチズム)は、通常の会話の中ではヒンシュクを買うことが多いのです。飲み会で盛り上がってるときにしたり顔で「〇〇の権威である〇〇博士がこんなことを言うてるんや。つまりやな...」なんてひとりが演説をはじめたら一気にしらけてまうというものです。しかし、この小説はそんな衒学趣味が嫌われることを分かった上で、あえて、わざと、徹底的に衒学を追及する、違った意味での「読者への挑戦」なんやと理解しました。

 殺人事件が起こり探偵が解決に取り組んでいくので、いちおうはミステリーなんやけど、真相として示されたトリックも結局分かりにくくて、加えて読者は探偵のペダントリーに付き合っているうちにさらに分からなくなってしまいます。

 ひとつ面白かったこととして、巻末の解説が、「あえて言ってしまうが、犯人は〇〇である」とズバリ名前書いちゃってるところです。普通ならこれは絶対にありえません。しかし、解説書いた人にしてみたらこの作品の魅力、特徴は、犯人捜しやトリックなど通常のミステリーが備えるべき要素なんてのはもう二の次で、作者が気持ちよく連綿と書き連ねてるペダントリーに、読者がいかに我慢してつきあっていくかという点に尽きると言いたいようです。半ばキレ気味の解説氏に共感できます。

 読後の爽快感は、まあ、ありません。

 昔、もう何十年も前ですが、わが家に大きなパキラの鉢がありました。

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 カイエンナッツとも言う、非常にポピュラーな観葉植物です。とくにやっかいな世話をするわけでもなく、たまに思い出して水をやってただけで次々に葉が出てくる手のかからない丈夫な植木でした。それが、ある時を境にだんだんと勢いがなくなり、切り戻したり植え替えたり、いろいろと手を尽くしてみたもののとうとう枯れてしまいました。

 それから何年も経って先日、パソコンで通販サイトをぼおっと眺めていたところ、パキラの種が売られてたんで、衝動買いしてしまいました。小鉢の植木を買うのではなく、種から育ててみようと思い立ったのです。

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 パキラは挿し木でも増えます。枝を切って土に差しとけば根が出て葉が出てどんどん大きくなります。花屋さんや雑貨店で売られてる小さなパキラの鉢はほとんどがこれで、種から育てた実生株はあまりありません。実生株は根元が膨らんで幹が太く育ちますが、挿し木は細いままでひょろっと伸びてあまり太くならないそうです。かつてわが家にあった鉢も、多分挿し木で増えた個体でした。

 十数個の種が届きました。さて、ネットで「パキラ 種から」でググると、たくさんの先達が詳細にスタートアップの方法を説明してくれてます。まずミズゴケにくるんで根が出るのを待つのがいいらしい。水ゴケなんてこれまでの人生で見たこともない。通販で買いましたよ。何でもそろうヨドバシ・ドットコム。

 2・3日水ゴケに漬けてたら固いカラが割れて根が出てきたので、これを1個ずつ小さな植木鉢に植え替えたところ、次々に芽がでてきました。をを!

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 よく見ると一つの種から芽が2本出てるのんがいくつかあります。このまま育ててええんやろか。まあ、双子なんやから仲良くしなさい。

 冬場なんで暖かい室内で日に当ててます。冬季は水をやりすぎないようにと注意がありましたが、発芽からしばらくは水はたっぷりの方がいいような気がして、土が乾いたらせっせと水やってます。

 発芽から10日ほどでこんな感じです。ここまでくると個体でだいぶ成長速度に差があります。早いのんは小さな小さなパキラの本葉が現れてきました。実にカワイイ。動物でも植物でも、発生段階はなんとも生命の神秘を感じます。

 ネットで得た情報によると、10年ほど育てると花が咲いて種がとれるそうです。10年かぁ...。

気球 揚がる

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 わたしが小学生の頃切手ブームの最中に発行されたもので、日本画家中村岳陵の「気球揚る」という作品です。気球ではなく女の人の絵なんで、タイトルと違うやんと思った記憶があります。実は切手にする際にトリミングされてて、原画では左上部にふわふわ飛ぶ気球が描かれてるのです。

 kikyu.jpg気球といえば、多数の熱気球が一斉に飛ぶイベントなど、実に迫力があります。

 似たのんに飛行船があります。こちらは、戦前のヒンデンブルク号の爆発事故で安全性に疑問が呈され、人や物の運搬手段としてはもはやありえませんが、現代でも商用にはたまに利用されてます。ただ飛んでるだけで地上から注目を集め、クジラを連想させるその形でプカプカと上空に浮いてたらずっと見ていたくなります。屋外に居た人は必ず目にするわけやから、宣伝媒体としては優れものと言えます。バブルの頃はいろんな企業が作って飛ばしてましたが、最近、あまり見なくなりました。やっぱりとてつもなくお金がかかるんでしょね。なんにせよ、気球も飛行船ものんびり優雅に大空を行く穏やかな印象があります。

 そんな平和利用ではなく、きなくさい気球の話です。先週、中国が飛ばした軍事偵察用の気球がアメリカを横断したところ撃墜されたことが話題になりました。おもしろい。

 まず、今や各国がハイテクの偵察衛星であまねく地球上すべてを監視している時代に、プカプカと気球を飛ばしてたのが実におおらかでよろしい。さらに、アメリカともあろう国がミサイル基地などの軍事施設上空を不審物が飛んでるのに、大陸を遥か横断するまでなんら手を打たなかったことがおもしろい。聞けばこれまでにも何回かそれらしき気球は報告されてたとかで、その間に得られた情報が逐一中国に送られてたことになります。dry.jpg

 「あれぇ、見つかってないんかな。ほんじゃもっと飛ばしたろ♪」と調子にのって、結局バレたときの中国の狼狽がおもしろい。「民間の気象観測用のんが軌道をはずれて...」なんて子どもでもウソとわかる苦しい言い訳、そんなはずないやろって。民間といいながらその企業名も、どういう経緯、状況でとかの説明も全く無い。そこまでのウソを準備する時間も無かったんでしょう。バカの露呈を指摘された中国の広報官は「撃墜という軍事行動は行き過ぎで、強硬に抗議する」なんて逆ギレしてます。おもしろい。

 他国の領域を不法に侵犯したんやから撃墜されて当然です。このままプカプカ地球をくるっと回って中国まで帰るのを静観せよということでしょうか。そんな国はありえんやろと思ったら、ありました。わが日本です。これはいささかおもしろくない。

 3年前と2年前の2回、東北地方を横断した気球、当時は正体不明と騒がれましたが何のことはない、中国が飛ばした偵察気球やったのです。思えば当時わが国の政府も自衛隊も「正体が分からない」と言い放つだけでまったく手をうたず、気球が東方に消え去るのをただ見守るだけでした。

 sendai.jpg不審物としてただちに撃墜せよとはいわないまでも、政府は中国に対して「今、うちの上飛んでるやつ、おたくのんとちゃうの?」という確認をしたのでしょうか。その上で「知らん」と言われれば「ほいじゃ、撃ち落とすけど文句ないな」という外交上の対応をきちんと行ったのでしょうか。そんな報道はついぞ聞けませんでした。今回のアメリカの毅然とした態度との差に唖然とします。

 読売新聞によると「自衛隊法による破壊措置は落下により人命または財産に対する重大な被害が生じると認められる物体を対象としており、偵察用気球に適用することは想定していない」そうです。けど「不審飛行物体」ということは、持ち主も目的も分からないということでしょ。なのに、あの気球は北鮮が飛ばしたものではない、爆弾は搭載されていない、被害は生じないとなぜ言い切れたのでしょうか。不審飛行物体の領空侵犯をただ見過ごした結果「日本は正体不明の気球が飛んでてもスルーする」というメッセージを中国や北鮮に伝えたことになりました。かつて尖閣諸島で領海を侵犯した犯罪人を言われるまま中国にお返しした悪夢の民主党政権を、これでは批判できません。国防上の大失態というべきです。

 太平洋戦争当時、日本軍が和紙をぺたぺた貼り合わせて作った風船爆弾を大量に米国本土に向かって飛ばしてたのは有名な話です。実際にアメリカではこの爆弾によって6人の民間人が犠牲になったそうで、それなりの戦果はあったのです。9.11テロで甚大な犠牲が出るまでの間、歴史上唯一米国本土が爆撃を受けて犠牲者を出した事件でした。

 気球をバカにしてはいけないのです。

 「日本のミステリー三大奇書」といわれている3つの作品があります。ミステリー大好きなわたしが、これまで「いずれ機会があれば」と思いながらこれまで読んでませんでした。

  夢野久作 「ドグラ・マグラ」20230205_004154146_iOS.jpg
  小栗虫太郎「黒死館殺人事件」
  中井英夫 「虚無への供物」

 知る人ぞ知るこの3編、先人のあまたの書評や感想を総合するに、「難解」「しんどい」「途中でやめた」等々、読書はもっぱら楽しむために行うものと拘る私をして、避けて通らしめるに十分な理由がありました。しかし、食わず嫌いはダメ、迷ったときはやってみよう、買わずに後悔よりも買って後悔すべし、好奇心とミーハー精神に抗えずとうとう挑戦を決意し、お正月からこっちですべて読んでみました。

 3編とも、殺人事件が起こって読者に犯人を考えさせるという点では、ミステリーの部類と言えます。しかし、昨今の夥しい推理小説、探偵小説、犯罪小説などを念頭に読み始めるとエライ目にあいます。

 まあ、その、なんというか、「三大奇書」の看板に偽り無し。名付けた人に敬意を表します。すごかった。ネタバレしないよう慎重に、順に感想を記してみます。まず今日は「ドグラ・マグラ」。

 長らく「読んだら精神に異常をきたす」と評されて、今なおファンが多く、発表から90年近く経った現在でも専門家の解説、論評も様々に行われてるそうです。

 20230205_005315863_iOS.jpg一人称の主人公が目を覚ますとそこは九州帝国大学付設の精神科病棟の一室であった。どうやら自分は過去の殺人事件に何らかの関与をしているらしいが、何も思い出せない...。

 ミステリーでは、まあありがちなスタートかなという感じで、このあと、くだんの事件の詳細やそこに至る経緯、秘められた様々な事情、そして主人公はじめ登場人物の人間模様が展開していく...であろうと読者は期待します。そして、果たして額面上その通りではあるのですが、えっとですね、その、ここまでです。もう少し言うと、ミステリーの通り相場は、どんでん返しで意外な犯人が明らかになることで読者はカタルシスと爽快な読後感を得るのですが残念ながらそんな展開にはならず、ストーリーのツジツマだけを念頭に読了するとモヤモヤが消えません。いったい読者に何を訴えたかったのか、読み終わって「はて?」となります。それを確かめるべく、志の高い読者は「もう一度読んでみよう」となるのでしょうけど、すんません、わたしはムリでした。

 精神疾患についての突飛な学説や、精神病患者の治療や処遇に関する理論的な考察が縷々展開されるので、作者夢野久作はその方面の専門家であったか、さもなくば相当綿密に取材と勉強を重ねて作品を仕立てたことが読み取れます。かといって患者の人権に関する課題を問うているわけでもない。難解。

 今回読んだのは角川文庫のんで現代仮名遣いに直ってたこともあり、90年前の作品の割には読みやすかった。それでも、作中に長大な論文や「キチガイ地獄外道祭文」なるこれも長大な冊子の内容が入り子の形で入っていたり、さらにお寺の縁起文書がそのまま引用されてますが、これは文語体です。はなはだ読みづらくてしかもやたら長い。ヘコタレそうになります。

 この作品、映画化されていると知って驚きました。この世界観、雰囲気をよくもまあ映像化しようと、またできると思ったもんだわ。しかも準主役級の役どころに、わたしが愛してやまない桂枝雀さんが起用されてます。原作を読み終えた今なら分かりますが、これは上手い。重要な登場人物である精神科博士の雰囲気を見事に体現しているでしょう。機会があったら観てみようかと思いますが、まあ、オンエアはないでしょうな。

WELCOME

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katsuhiko

男 

血はO型

奈良県出身大阪府在住のサラリーマン

生まれてから約半世紀たちました。

お休みの日は、野山を歩くことがあります。

雨の日と夜中はクラシック音楽聴いてます。

カラオケはアニソンから軍歌まで1000曲以上歌えます

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