失われた飛鳥美人

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 好きなテレビ番組のひとつにNHKの「アナザーストーリー 運命の分岐点」があります。

 内外の歴史上の出来事について、事件に関わった多くの人々の視点に立ったエピソードで組み立てて、その出来事そのものを切り口を変えて検証していきます。10年くらい前、同じくNHKで「その時歴史が動いた」という似たコンセプトのシリーズがあり、こちらも好きでした。わたしはNHKが大嫌いでボロクソに書くことが多いのですが、これはもっぱらNHKそのものの在り方や経営方針に対する嫌悪感であって、制作している番組自体は評価しています。お金を払ってでも視たいものが実に多い、だから是非スクランブル化せよという話です。中にはくだらないものもありますが、特にこの種のドキュメンタリーはNHKの独擅場であり、民放にはとても真似ができません。20211017_020348977_iOS.jpg

 その「アナザー...」で先日、「"飛鳥美人"発見! それはパンドラの箱だったのか?」がオンエアされました。

 とうとう出たかという感じです。日本考古学史上最大の発見と言われた出来事で、ふるさと奈良県の事件でもあり、非常に興味深く視ました。

 昭和47年(1972年)。事案はリアルで覚えてます。当時私は小学生でした。発見のニュースからしばらく経って友達と遠路自転車漕いで見物に行った頃にはもう人出も一段落し、古墳周辺は閑かな雰囲気でした。もちろん古墳の中に入れるわけもなく、また小学生が考古学的知見を深めるはずもなく、あまり意味のないお出かけではあったものの、楽しいサイクリングの一日として思い出に残ってます。せっかくやからと明日香村をぐるっと散策、めずらしく写真も撮ってました。

 それはそうと「パンドラの箱」です。番組の意図は、発見はいいとしてその後の国や学会の対応が適切であったのかという視点です。これはわが意を得たりという思いでした。当時の関係者、今にいたる保存の責任者たちは、やってはいけないことをやってしまったのです。

nyoninzou.jpg 発見と同時に、壁画の劣化がスタートしました。1300年以上の間、鎌倉時代に盗掘にあったことを除いて石室内は静かな時が経過し、壁画もその姿を変えることはありませんでした。しかし、愚かな発掘担当者と学者が石室に足を踏み入れた瞬間から壁画の破壊が始まったのです。

 番組を視て知ったのですが、壁画を保存するためと称して時の著名な日本画家たちが石室内に「ひとり30分」マスクもつけず立ち入って壁画を模写したんやとか。その後入れ替わり立ち代わり多くの愚か者たちが点検、修理と称して、1300年間変わることのなかった石室内部の状態を破壊し続けました。その結果、文化庁が「適切に保存されている」とウソを発信し続けた壁画は平成13年(2001年)、とうとう大量のカビの発生により解体保存やむなしという羽目に陥りました。日本の文化財保存の意識、技術はこれほどまでにお粗末であったのです。法隆寺の壁画焼失に匹敵する大失態です。

 平成20年(2008年)、文化庁が解体した石室と壁画を公開するというので、私は抽選に応募、当選して懐かしい明日香村に足を運びました。そして保存施設でガラス越しに、バラバラにされた石室とそこに描かれた壁画の実物を初めて見ることができました。感動の初対面。ところが、子供のころから思い描いてきた壁画の、あまりに変わり果てた姿に言葉を失いました。あの飛鳥美人はもういません。永遠に失われてしまったのです。

 横でガイド役の文化庁の役人が「ほらほら、女人像の足元のスカートのとこなんか、まだシマシマに色が残ってるでしょ...」一瞬、殴ったろかと思いましたよ。「こんな不始末を仕出かしてしまい誠にあいすみません」というべきとこやろ。なに偉そうに自慢してんねん。

 「もし見つかってなかったら、今でも極彩色のままやったんやね」と、皮肉をかましたところ「さあ、それはなんとも...」実に役人らしい担当者でした。

 宮内庁が「陵墓の静謐」維持のため、天皇陵および陵墓参考地等の発掘調査を認めないことは、陵墓の指定そのものに科学的根拠が希薄であるため不適切である旨のことをかつて書きました。しかし、「高松塚古墳世紀の大失態」をみていると、考古学関連の技術、意識がもっと成熟するまで宮内庁の意向に従うのもやむなしかと思ってしまいます。まあ、わたしが生きてる間はムリでしょね。

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katsuhiko

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