奇書その3「虚無への供物」

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 今日は統一地方選挙の投票日です。うちの市では市長選も市議選もなくて大阪府知事と府議の改選なんですが、府議は無投票で決まってて結局知事選だけです。候補者をながめると大阪維新の会の現職吉村さん以外は泡沫候補ばっかりで、投票締め切りと同時に「当確」が打たれます。盛り上がりに欠けます。

 一方おとなりのふるさと奈良県の知事選はおもしろい。一連の高市大臣関連のドタバタで保守が分裂してしもたところに維新の候補者が漁夫の利を狙う構図となっており、自民党が強い奈良県で大阪以外初めての維新知事誕生かという、目を離せない展開となってます。車で奈良まで行って、そっち方に投票したいもんだわ。まあ、お天気もいいし、ブログの更新が終わったら散歩がてら投票所に赴き、国民の義務を果たすことといたします。

 さて、三大奇書、最後「虚無への供物」について書きます。

 中井英夫という人の作品で、これもまた古い。1954年の洞爺丸事故直後に発表されました。ちなみに、この実際に起こった大災害が作中でひとつの重要な要素となってます。

 推理小説の歴史は古く、E.A.ポーが史上最初の推理小説といわれる「モルグ街の殺人」を発表したのが1841年といいますから、日本では老中の水野忠邦が天保の改革を始めた年です。その後、世界中でまた日本であまたの作品が世に出て、読書の楽しみにおけるひとつの分野として確立していきました。「虚無への供物」は、この「推理小説」というものに対して一石を投じる意味で世に問われた、いわゆる「アンチミステリー」であるというのが現代における評価です。いったい何のこっちゃいと思いつつ読み終えて、なるほどねと納得しました。

20230409_010207937_iOS.jpg 三大奇書のうちでは、ミステリーとしてそれなりに楽しめる作品ではあります。しかし、それでも奇書と言われるだけあって、昨今のステレオタイプの推理小説を念頭に読み進めるとまたえらい目に遭います。

 推理小説の基本的な構造として、殺人事件が起こって探偵が登場し、犯人を突き止め(who done it)動機を明らかにし(why done it)トリックを暴いて(how done it)いきます。探偵がすべての真相を説明するのは物語の最後で、登場人物を一堂に集めた上でおもむろに「犯人はあなただ!」と指さすことになってます。

 そしてそこに至る基本的なルールとして、有名な「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」などが伝わってます。曰く「犯人は物語の早い段階で登場していなければならない」とか「犯行の方法は超自然的な力は使っちゃだめ」とかとかいろいろあります。なるほど、謎解きで明かされた真相が「犯人は行きずりの強盗だった」とか「犯人は魔法使いで、密室の被害者を魔術で呪い殺した」では推理小説が成り立ちません。古今東西の推理小説は基本的にこれらのルールを遵守して読者に知恵比べを挑む、とされてきました。

 ところが、作者の中井英夫さんはこんなルールが気に入らなかったらしい。「虚無への供物」では沢山の殺人(?)が起こりますが、探偵役の複数の登場人物がストーリーの途中で推理をひけらかして延々と議論を続けます。その中では「その説ではノックスの十戒にそぐわない」とか、「次の殺人はどこで誰が殺されるか当ててみせよう」なんて、作中人物が作品の構成を語るがごときシュールな展開もでてきます。

 探偵たちが、犯行の様子について得意げに披露する推理は結局全部ハズレで、事実は小説のような奇想天外なものではなく、肩透かしを食ったようなありきたりのものでした。

 そして、それぞれの殺人事件が、謎解きと言えるかどうかも覚束ない、なんだかもやもやした雰囲気の中なんとなく物語は終わっていきます。トリックやどんでん返しが推理小説の真骨頂という常識の中で、ミステリーそのものを否定するかのような実験的な小説、それが「虚無への供物」でした。この作品がアンチミステリーと言われる所以です。

 だいたいミステリーなんて実際にはおよそ起こり得ないフィクションであり読者はそれを承知で楽しむわけで、それをことさらに「ミステリーなんてフィクションで実際には起こり得ないんやで」ということを主題に据えて書く必要があるんかと思うわけですよ。いい湯加減のお風呂に浸かってるときに、いきなりバケツで冷水を放り込まれるようなもんです。

 さて、三大奇書の感想を順次書いてきましたが、共通して言えるのは「読み進めるのがしんどくて、読後モヤモヤが残る」ということでした。ミステリーに限らず小説なんてのもやっぱり映画と同じで、頭ン中空っぽにして耽溺できるのんがよろしい。奇書3つを読破したおかげで、今後はたくさんのミステリーのありがたさ面白さをより実感できるようになったかなと、ポジティブに捉えることとしましょう。

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