恥ずかしながら

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 1972年というと、私が小学校5年生のときです。

 高度成長の真っただ中、戦争は過去のものとなりわが国が急速に豊かになっていった時代、新婚旅行のメッカが熱海からグアム島やハワイへと変わっていった頃です。

 そのグアム島のジャングルで旧日本軍の兵隊さんが見つかったというので、日本中大騒ぎになりました。もちろんわたしもよく覚えています。横井庄一軍曹は島民に発見させるまで終戦に気が付かず、米兵に見つかったら殺されるという上官の言葉をけなげに信じて島の奥地で人知れずサバイバル生活を続けること実に27年。旧日本兵の精神と肉体の強靭さを世界に知らしめ、一大センセーションを起こしました。「恥ずかしながら帰ってまいりました」は当時の流行語にもなりました。onoda.jpg

 なぜにいまさらこんな話をということですが、近年人気を博しているコミック「ONE PIECE」の作者が単行本に書いたコメントが批判されてるからです。日経新聞などによると、作者の尾田栄一郎氏は、コミック単行本のコメント欄で、食事の席で大皿に1つ残った唐揚げを「横井軍曹」と名付けて「誰か戦争終わらせたげて!」などと茶化しています。しかも、その横井さんの肖像を描いたと思しきイラストは明らかに小野田寛郎少尉の写真をうつしたものです。

 小野田さんも、横井さんに遅れること2年、フィリピンのルバング島で捜索隊に発見され、同様に帰国した旧日本兵です。

 二人に対する評価は様々です。しかし、戦後の繁栄と物質主義の中で日本人の多くが喪失した誇りを喚起した、また、忍耐、恭順、犠牲といった戦前の価値を体現し現代日本人が失った精神を知らしめた日本人の鑑である、など概ねヒーローとして扱われました。もう少し時代がずれていたら国民栄誉賞候補となったかもしれません。私としてはヒーローというよりも、なんとも気の毒な目に遭わはったなぁという思いとともに、戦争の悲惨さを違った角度からあらためて知らしめた点でその功績は大きいと思っています。少なくともその存在、意義を「から揚げ」に例えて揶揄していいものでは断じてありません。

 最近コミックをほとんど読まなくなった私にしても、尾田栄一郎という名前は聞いたことがあって、作品がバカ当たりして大金持ちになった漫画家である、ぐらいは知っています。ググってみると1975年生まれやとか。横井さんや小野田さんの帰国はこいつの生まれる前の話で、なるほどなぁという感じです。

 「恥ずかしながら」には、皇国軍人としての務めを全うできず天皇陛下に申し訳ない、また、繁栄する現代日本において国民が忘れたい戦争の残滓を再び晒すようなことをして恥ずかしい、といった横井さんの素直な深い思いが込められており、当時の日本人はその謙虚な姿勢に尊敬と慈しみの念を抱いたものです。だから、そんな事情を知りもしない、横井さんと小野田さんの区別もつかない世代の日本人が、今回のように軽々に「恥ずかしながら」をジョークとしてメディアで流布するがごとき行為には怒りを覚えるのです。

 「ONE PIECE」、あまりに売れてるんで、そんなに評判がいいのなら機会があれば読んでみよかな、とかなんとなく思ってましたが、作者の性根が知れた今となってはおよそ興味がなくなりました。無駄な時間を費やさなくてもよくなったという点で、今回の騒ぎは役に立ったといえます。

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katsuhiko

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