先週、のぞみ号列車内のできごとを書きましたが、その日は九州への出張で、目的のひとつはJR九州の本社を訪ね経営に関するお話を伺うことでした。
JRといえば、日本最大の企業グループでかつてのどん底国鉄から華麗なる変身を遂げた日本の花形企業であります。役員の方から、その分割民営化から現代にいたる道のりや現状と課題などについて、アウトラインではありますがご説明いただき、興味深くお聞きしました。
民営化されたのちJR東、西、東海のいわゆる本州3社についてはもともと収益性が高くその後順調に業績を上げて上場を果たしましたが、JR北海道、四国、九州は採算の厳しい路線が多くてしんどい状態が続いてきました。民営化してもすぐにひとり立ちできるはずもなく、税金の減免や経営安定基金からの補てんによってなんとか事業を継続してきたそうです。しかし、九州新幹線の開通とクルーズトレイン「ななつ星」に代表される企画列車の大当たりで近年とみに元気になってきて、どうやら九州も上場し完全民営化への道筋が確かなものとなってきたとか。実によかった。企業努力のタマモノです。
完全に死に体であった国鉄がなぜ復活できたか。九州に限っていえば多角経営の成功ということらしい。
企業の経営多角化は何かとリスクが多く、成功例はあまり聞きません。バブル期には多くの企業が痛い目にあいました。資金、資産運用などほとんど経験も実績もなかったメーカーや小売店がのきなみ銀行にそそのかされて、競って土地投機に手を出し結局大損害を被り、それが原因でつぶれちゃった会社もひとつやふたつではありません。一方、地道に本業に勤しんでいた実直な企業は、ほとんどダメージなくバブルの崩壊を乗り越えたわけです。
「世界最強」といわれた巨大コングロマリット、ゼネラルエレクトリック(GE)の業績を飛躍的に向上させ、20世紀最高の経営者と評された元CEOのジャック・ウェルチが提唱したのは「選択と集中」という、多角化とは正反対の経営戦略でした。
ところがJR九州はそうではなかった。「なんでや~」ということになります。
JRはもともと鉄道会社ですから、本業に集中しようとするとつまりは鉄道事業ということになります。ところが、そもそも国鉄時代の線路網は、明治の昔から採算度外視で、とにかく政治主導でやみくもに敷設されてきました。もともと儲けるつもりなんかなかったわけやけど、それでも昭和の頃まではまだ地方にもたくさん人が住んでたから、なんとか事業体の形を保ってた。しかし、高度成長期に過疎化とモータリゼーションが一気に進んで、地方ローカル線の赤字がひどいことになっていったわけです。
もうね、列車が走れば走るほど赤字が膨らんでいくわけで、民間企業ならとっくの昔に倒産してるはずでした。しかしそこは親方日の丸、税金をジャブジャブ投入して赤字補てんしてなんとか維持してたけど、1980年代後半になって「こりゃあ、いよいよダメやな」と時の政府が世紀の大リストラ、分割民営化に踏み切った。国労(国鉄労働組合:当時日本最大の労働組合にして諸悪の根源)や過激派やなんかの抵抗もむなしく1987年、ついに分割なった新会社が発足しました。
臨終まぎわ1981年の国鉄路線、営業係数(100円の営業収入上げるために必要な経費のこと)ワースト20みてみると
深名線(北海道)2901 白糠線(北海道)2872
美幸線(北海道)2804 万字線(北海道)2773
漆生線(福岡県)2651 室木線(福岡県)2540
胆振線(北海道)2432 富内線(北海道)2276
湧網線(北海道)2156 興浜北線(北海道)1997
上山田線(福岡県)1982 相生線(北海道)1866
渚滑線(北海道)1761 宮原線 (大分・熊本県)1728
小松島線(徳島県)1680 岩内線(北海道)1663
香月線(福岡県)1542 興浜南線(北海道)1536
日中線(福島県)1447 宮之城線(鹿児島県)1426
ほとんどが北海道と九州です。つまり、国鉄時代のJR九州、儲ける気がなくて新規事業なんてチャレンジ精神があるはずもなく、枝葉を切って本業を頑張ろうなんていっても、余剰人員以外に切るべき枝葉がそもそもなかった。
そこで、逆に鉄道を中心とした企業グループとして超多角化に打って出ます。沿線開発から不動産事業、ホテル業は言うにおよばず、バス、高速船、コンビニ、薬局、ファストフード、警備、果てはなんと農場つくって農業まではじめたとか。
なんせ人材は質・量とも豊富。旧国鉄時代からさまざまな職種に従事していた社員がたくさんおり、資格やスキルを活かして新しい分野に切り込んでいきます。船員になりたくて船の免許とったけど希望かなわずあきらめて国鉄に入ったところが、時を経て今、高速船を操縦している人もいるとか。おもしろいもんです。
そいや本丸の博多駅ビルに入っているのは、なんとおなじ鉄道企業グループ大手の阪急百貨店です。もはやJR九州、鉄道会社とは言えないかも知れません。
お話聞いたあとでは、頑張ったJRの成果を実感する意味でも、例の「ななつ星」一度でいいから乗ってみたいもんです。
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