Fail Safe

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 昨日、今や毎年恒例となった京都での花見に出かけ、久しぶりに旧友たちとの交歓が盛り上がりました。雨の予報に反して薄日がさす春爛漫の京都の様子は追って書いていくこととして、今日はその京都で親しい友人と話すうちに妙に印象に残ったことです。

BAKUHA.jpg ものつくりの基本的な哲学のひとつに、武器などは除いて人間が造りだしたものは原則的に人間に危害を加えることがあってはならないとされています。アイザック・アシモフがロボットの3原則として似たようなことを提唱しましたが、何もロボットに限らず人が作り出したすべての造型についていえることです。

 しかし、たとえば金づちは釘を打つのにはたいへん便利ですが、使い方を間違うと指に怪我するし、電車はたくさんの人を運べる便利な道具ですが、踏切に人が入るととんでもないことになります。また、自動車のブレーキがいきなり故障すると大変な事態が生じます。

 つまり、道具が人間に危害を加えないという命題には、その道具の正しい使い方が遵守されていることと、道具が道具本来の機能、性能を正しく発揮している範囲でというファクターがかかるのです。

 クルマは動かさないと役に立たない。しかし、まんいち壊れて制御きかなくなると大変困る。どうするか。壊れたときには必ず安全な状態に収束すること、つまりは確実に止まること、というのがモノづくりにおける「Fail Safe」の考え方です。だから基本的に現代の道具は「壊れたら止まらない」ではなく「壊れたら動かない」ように作られてます。止まれば安全なんです。

 これを逆手にとって犯罪に利用したものとして有名なのが、往年の日本映画の傑作「新幹線大爆破」でした。

 今は亡き高倉健さん演ずる犯人が新幹線に爆弾を仕掛けたのですが、なんとこの爆弾、列車が一定速度以下にスピードを落とすと爆発する仕掛けになってたのです。走り続けるしかない。何とも見事な発想です。

 こんなことを思い出したのは、先月起こったドイツのLLCの定期便がフランスで墜落した事故を聞いたからです。現在社会においておそらくは最高に便利な道具のひとつである旅客機は、壊れたときに「Fail Safe! とにかく止まろう」ではどうしようもない。落ちてしまう。だから万一エンジンが全部止まっちゃった場合でもしばらく滑空できるような構造になってるらしいけど、それでは焼け石に水で大きな犠牲は避けられません。だから、こと飛行機に限っては止まっちゃうことは絶対にないよう整備することで安全を確保するしかないわけです。GERMANWINGS.jpg

 合わせてハイジャック防止のため、コクピットは外からは絶対に開けられないようになってる。人為的な事故、犯罪を防止するための、これ以上ない仕組みです。これが今回の事故につながるとは誰が予想し得たでしょうか。異常をきたした副操縦士に締め出された機長が外から扉を開けられたら、多くの犠牲者がでることはなかった。万全の安全体制が逆に最悪の事態を惹起した、なんとも皮肉な話です。

 結局は人のこころの問題に帰結します。正常な状態でない副操縦士がコクピットに就いた時点で、人類は道具に負けたのです。わが国のJR福知山線の大参事も同じでした。人は間違うものという前提で進められるものつくりの理念が、今回の事件でまたひとつ進化しました。操縦士をコクピットにひとりにしない。科学技術万能を謳歌する現代社会にあって、こんな簡単なことに誰も気がつかなかったとは、人間もまだまだやなあとか思います。また、高機能、万能の道具であってもそれを操作するのは結局は人間であって、働く人の心身のケアは何事にも増して重要であることを肝に銘じる必要があります。多くの犠牲を無駄にしないためにも。

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katsuhiko

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