放たれた虎

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PB024079.jpg 吉野山ウロウロの続きです。

 西行庵をあとにし、青根ケ峰に登り奥千本一帯をぐるっとひと周りした後、バスで登ってきたドライブウェイではなく、いまにも崩れそうな細い林道をてくてく下っていきます。路面に丸っこいシカのフンがたくさん転がってます。

 夏にお参りした吉野水分神社の傍らを過ぎ、上千本まで下りたところでメインストリートを逸れて、喜佐谷から宮田遺跡を目指しました。

 いちにちの行程を大っきく言うと、馬の背状に突き出した吉野山の尾根を先端から真っ直ぐ登って左に下りるかたちになります。降りて行く小径はハイキングコースとして整備されてます。森の中を「象の小川」という渓流に沿って続いており、その昔は吉野と伊勢を繋ぐ要路やったとか。この小川が吉野川に注ぐところに宮滝の遺跡はあります。

 吉野山は日本PB024084.jpgの古代史と南北朝の中世史で歴史の舞台となりました。中世のヒーロー後醍醐天皇の活躍というかやんちゃぶりは、足利尊氏とからめてよく小説、ドラマで描かれてきました。一方、古代の方はあまり題材にされてないように思います。壬申の乱なんて古代史上最大の戦乱、大スペクタクルなんやから、大河ドラマの題材としてはもってこいやと思うのですが、未だ企画されません。黒岩重吾の「天の川の太陽」とか恰好の原作やと思うけどなぁ。やっぱりよく言われているように国営放送としては天皇のご先祖様を主人公にすることはタブーなんでしょうか。

 壬申の乱は大海女皇子と大友皇子の皇位継承をめぐる大げんかです。天智天皇10年(671年)、死期を悟った天智天皇が弟の大海女皇子を呼んで「オレのあと継いで即位してね」 と頼んだところ、大海女さんは 「今即位なんかしたら、大友皇子を担ぐ現大王派の連中に、そっこー殺されちゃうやん。じょーだんやないわい」 とすぐにこれを断り、出家・断髪して吉野へすたこら。IMG_1112.jpg

 これを天智帝が許したってんで、時の都・近江大津宮の人たちびっくりして 「大海女、逃がしちゃったの!? んなことしたら虎に羽着けて放したよなもんやんか」 とか噂し、これがその年の流行語大賞を受賞したたらしい。

 都人たちの懸念は現実のものとなり、翌年大海女は吉野を脱出して美濃までまわって一気に挙兵。琵琶湖の東岸で大友皇子軍をさんざ蹴散らして都に攻め込みます。破れた大友皇子はあえなく自殺。大海女皇子は飛鳥に戻って即位します(天武天皇)。天武帝、もともと統治能力には長けており、天皇として日本の政治機構、宗教、歴史、文化の原型をいっきに築いていき、その事業は奥さん(持統天皇)へと引き継がれていくのです。白鳳文化が一気に花開いた時代です。

 宮滝に向かう象の小径が舗装道路に合流し、さらに少し下ったところ谷あいに「桜木神社」というわりと大きな神社が忽然と現れました。案内の看板によると、大海女さん、近江から引きこもってきたとはいえ大友派に命を狙われていることに変わりはなく、あるときここに隠れてあやうく難を逃れたことがあったとか。で、以来、この神社を大事に奉り、今に至るということらしい。お参りしてみると、お社は朱塗りも鮮やかでわりと新しい感じがしましたが、境内に立つ杉の巨木が歴史を感じさせます。誰もいない。ひっそりとしています。傍らに大海女皇子に因んだ碑が建ってます。PB130122.jpg

 さらに少し下ると目的地、宮滝遺跡が見えてきました。吉野川は宮滝をさかいにしてその表情を一変させます。上流は大きな岩がごろごろした渓流、宮滝を過ぎると川幅が徐々に広がり大河の様相を呈していきます。遺跡付近はところどころ薄緑色に透き通った水をたたえた淀となっています。これほどの大河でこれほどの透明度があるところはほかにみたことがありません。世界有数の降水量を誇る大台ヶ原を源流とし天然の浄水器みたいな森の中を一気に流れ下りてきた清流なればこその景観です。縄文の太古から人が居住し、古代には朝廷の吉野離宮が営まれ、万葉歌人の山部赤人が「み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも」と詠んだその閑かさのままに現代に至る空間です。

 あとはバスに乗って駅へと向かうだけ。再び現代文明の中へと引き戻される接点です。今日の漂泊はここまで。

 深まりゆく秋の気配をいっぱいに感じながら、吉野を拠点として権謀術数うずまく政争を勝ち抜いた、古代のスーパーヒーローに思いをいたしたいちにちでした。 

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katsuhiko

男 

血はO型

奈良県出身大阪府在住のサラリーマン

生まれてから約半世紀たちました。

お休みの日は、野山を歩くことがあります。

雨の日と夜中はクラシック音楽聴いてます。

カラオケはアニソンから軍歌まで1000曲以上歌えます

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