漂泊への誘い

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PB024031.jpg 前回、宇陀松山と歌人柿本人麻呂のことを書きましたが、その前日、実は吉野山に登ってきたのです。

 故郷に近い吉野は馴染み深いところです。人はそれぞれ故郷というと何かうまく説明できない親しみや畏怖の念、感謝の思いやなんかを感じると思います。たとえそれが日本中どこであっても、その人にとって超特別な空間であることは間違いないでしょう。わたしの場合は生まれ育った土地が奈良、吉野という、実はそれぞれ世界遺産に選定されるほどの有名なエリアであったわけですが、ふるさとという意味では他の人となんら変わりはありません。両親はじめ親戚・縁者もたくさん住んでるし、多くの幼なじみや友人もいます。年に何回かの帰省はやはり楽しいもんです。

 そんな故郷にほど近い吉野山ではありますが、最奥部のいわゆる「奥千本」といわれる一帯、実はこれまで行ったことなかったので、所用あって実家に帰るついでに訪れてみたという次第です。今年の夏、同様に用事ができて実家に帰った際に上千本に吉野水分神社を訪ねたのに続いての吉野山ハイキングとなりました。

 今回は時間を短縮し、最深部の奥千本に至るまでの道はバスを利用しました。奥千本バス停に降り立ち、まず金峯神社に参詣してから目指す西行庵に向けて出発。休日とはいえ紅葉には若干早い霜月初旬ですが、同じようなハイカーがチラホラ。外国人のグループも。中でも、ひとりで歩いている若い女性が目立ちます。わたしのような親父だけでなく吉野の魅力は万人にうったえるものがあるということでしょう。

 細い山道を辿って行くにつれて、あたりは山奥の静寂につつまれていきます。静かさが襲ってくるような感覚を覚えます。こんなのは久しぶり。都会で感じる静かさ、たとえば深夜にひとり部屋に居る時の静かさとはまったく違う、しいてたとえれば雪が降り積もった朝の情況に似ています。街中にくらべて人工的な音を発するものが圧倒的に少ない空間が拡がるとこんな雰囲気になるのでしょうね。「静かさ」ではなく「閑かさ」がピッタリとはまります。森林浴といえば樹木が発散する何とかいう化学物質の効果が人体に作用するそうですが、そんなものなくても、日常あり得ないこの閑かさの中に身を置くだけで心身が癒されていく気がします。

 杉の林を抜けて行きます。名高い吉野杉の美林です。見上げると一本一本がどこまでも真っ直ぐに天を指しています。風雪の妨げもあるやろうに、なんと見事に伸びるもんやと感心します。これもまた自然の凄いチカラか。などと考えてるうちに、西行庵にたどり着きました。PB024041.jpg

 平安末期から鎌倉時代、西行は20代で出家して心のおもむくまま諸国を巡る漂泊の旅に出て、ときにあちこちに草庵を結び、多くの和歌を残したといいます。「願はくは花の下にて春死なん、そのきさらぎの望月のころ」と詠んだそのとおりに、73歳の春、入寂したとか。放浪の人生、あくせくした現代人からすると何とも羨ましい限りの生きざまではありませんか。平安のスナフキン。是非ともあやかりたいもんです。

 けど、いったいどやって食べてたんやろ、とか考える時点で、わたしはもう漂泊の歌人にはきっとなれないのでしょう(^^)

 この小さな小屋、西行の庵とされてますが、まさかホントに西行の時代からそのままここにあるはずがないのであって、おそらく江戸時代か明治期か、はたまた戦前戦後かわかりませんが後年になって造られたもんでしょう。傍らに立つ看板にはそのあたりの説明はありません。しかし、かつて月と花をこよなく愛でる西行という風流歌人が森の深奥でこういうわび住まいをしていた、というイメージを現すものとして大いに価値があると思います。

 前に立つ一本のモミジの樹から、庵に向かって枝が一本伸びていました。おそらく今頃はこの枝が真っ赤に染まり庵の風情もいや増して、それこそ絵画のごとく観る人を魅了していることでしょう。見上げると周囲の山々も一面の紅葉に彩られ、桜の頃に劣らぬ絶景を呈しているはずです。ただ、そのぶん訪れる人も数十倍に増えているわけで、それでも庵の谷のあの閑かさは感じられるのでしょうか。

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コメント(3)

奈良県人でも奥吉野はひとからげにして考えてしまいます。
大塔村コスミックパークにドーム付きバンガローというのがあります。
一棟一泊25000円、食事は持ち込み自炊、お風呂は星乃湯へ。
気になってます。

あいうえだぁ様

ググりました。
ホシミストたちのためのスポットですな。
けど、林間学校みたいでおもしろそですね。しかも温泉もあるし。
よくこんなとこ見つけるもんだわ(^^)

職場の同僚Sって?
確かに見覚えのある中国製カセットテープ。間違いない、きっとあの麗しの君。
こんな深夜まで読ませるあなたって罪な人。K大マグロの夢でもみながら、そろそろ寝ます。

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katsuhiko

男 

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奈良県出身大阪府在住のサラリーマン

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雨の日と夜中はクラシック音楽聴いてます。

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