連載のココロ

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img005.jpg 先月から朝日新聞で夏目漱石の「こころ」が連載されてます。朝日の社員やった漱石が大正時代に書いた際のスタイルのまま、今によみがえっているのです。

 漱石の作品は「三四郎」「それから」「虞美人草」「行人」など朝日新聞に連載されたものが多いのですが、「こころ」もそのひとつで、漱石の代表作のひとつとして今に読み継がれている名作です。我が家にある「こころ」は偕成社という出版社の少年文学全集のもので、小中学校の図書室にズラッと並んでるタイプのハードカバー本です。自分で買ったのか、それ以前からうちにあったものか入手の経緯は覚えてませんが、なんしか読んだのは中学生のときでした。

 「小中学生向け」のシリーズということで難語の注釈も子供向けになってますが、果たして「こころ」を小学生が読めるものかどうか、いささか疑問ではあります。少なくともわたしの場合は、中学生やったけどおもしろかったとか感動したとか、なるほどと得心したということはなかった。

 「〈上〉先生と私」「〈中〉両親と私」ときて「〈下〉先生と遺書」は「先生」が「私」に郵送した手紙という設定ですが、こんな長大な文章、封筒で送れるわけないやんか、原稿用紙に書いたとしたら段ボールに入れてクロネコ呼ばないと無理やろ、漱石さんたのんまっせ、と物語とはおよそ関係のないところでひとり突っ込んだことは覚えています。

 高校時代に現代国語で再会して読み直し、なるほどそういうことかと多少納得したような次第です。この現国の先生、なんだか教材に関係ない(しょーーもない)ことをツラツラ喋ってるうちに時間終わってしまうことが多く、クラスのキレた誰かが「先生、結局この部分の主題は何なのですか?」なんて質問しようもんなら、「そんなことは今までの話の中で自分で感じろ」なんていう、とんでもない教師でした。

img006.jpg 話それました。「こころ」です。今あらためて読み返してみると、「先生」やその友人「K」はなぜ死んだのやと思う?という漱石の設題に対して、最初に読んだときとは違った解が浮かんできます。文学作品は何回か読み直してみるのもいいもんです。それもかなりの年月を隔てた方が、違った見方をする自分に気づきます。これは文学に限らず、たとえば映画や音楽にもいえると思います。歳とった分いろんなものが身についてきたということでしょう。

 主題に関係ないといえば、大学を無事卒業した「私」と「先生」とのやりとりの中に「まだ卒業もしていないうちから教師の口を探すような友人もいる」というくだりがあります。当時、大学への進学率は1%未満、超高等教育機関です。現代の18歳人口120万人、東大・京大の入学定員がそれぞれ約3,000人として、あわせて全国の同学年の約0.5%ですから、当時の1%の学士様がそれに匹敵する超エリートレベルやったというのも納得です。社会から引く手あまたで、大学さえ出ればやりたいことはそれこそ何でもできたでしょう。100年後のこんにち、2人に1人が大学に進学する時代となりました。天上の漱石先生、はたしてどう思ってみているでしょうか。

 さて、今回の朝日新聞の企画は、「名高い文豪、夏目漱石はわが社の人間やったんやぞ、すごいやろ。名作をもう一度読ませてやるからありがたく思え」という匂いがプンプンしてなんとも鼻持ちならない。「天声人語書き写しノート」なるものを売っている朝日のこと、ひょっとして…と思ったら案の定、もうすぐ連載のスクラップ帳にも使える、その名も「こゝろノート」を配布するのやとか。まったく呆れた話です。読ませてやるのみならず切り取って保存させてやるのやから、いや増してありがたく思えと。まあ、ずいぶんと上からくるやないですか。

img004.jpg これは是非とも手に入れてスクラップを完成させなければなりません。わたしは、大新聞の傲慢な態度に反駁する気持ちはあれど、それを凌駕するミーハー精神を持ち合わせているのです。連載の切り抜きはもれなくとってあります。せっかくの機会を逃す手はありません。企画に乗って楽しませてもらうこととしましょう。さっそく販売店に電話して注文しました。早く届かないかなぁ(^^:)

 ところでこの「こころ」、毎回冒頭に「心」をデザインした四角いロゴが載ってますが、副題のようなかたちで「先生の遺書(○○)」とタイトルがつけられてます(○○は連載回数)。漱石は当初この小説を「こころ」という短編集の最初の巻とするつもりで、「先生の遺書」というタイトルで書き始めたそうです。それが思いのほか筆がノッた結果、長編になってしもたらしい。したがって連載当時は「先生の遺書」やけど、連載終わって出版される際には「こころ」に変身したということやそうです。何とも計画性のない話。けど、小説家の仕事なんて、特に連載の場合は今でもそんなもんなのかも知れません。

 朝日の連載小説といえば、同じく先月、宮部みゆきの「荒神」が終わっちゃいました。わたしはどっちかというと一気読みしたい方で、毎日少しずつ読んでいくのは苦手で、連載を始めから終わりまで読み切ったなんてことはほとんどありません。しかし、好きな作家さんということと、たまたま連載の開始に気が付いたということから、今回は毎朝かかさず読み続け、1年とちょっとでコンプリートしました。

 宮部得意の時代小説と、同じく得意分野のファンタジーを合わせた内容です。ウルトラマンシリーズよろしく怪獣なんか出てくるもんやからどうなることかと思いながら読んでいきましたが、最後には宮部らしい爽やかな感動とともに収束していきました。やっぱりうまいもんです。

 仕事の都合で2・3日飛んでしまったりといった危機も乗り越え、途中で登場人物がわからなくなったりもしましたが、単行本にはない連載の楽しみ方を思ったしだいです。

 今は夕刊で今野敏の「精鋭」という連載を読み続けてます。この作家さんは重厚な警察小説を得意としているらしいのですが、私はあまり知りません。今度の連載も予備知識まったくなしで読み始めましたが、どうやら警察ものぽいです。風呂上りにビール飲みながら読むのが日課になってます。しばらく楽しませてもらいましょう。

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katsuhiko

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奈良県出身大阪府在住のサラリーマン

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雨の日と夜中はクラシック音楽聴いてます。

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