砂川事件裁判

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 砂川事件といえば、法学部の憲法の授業では必ず登場する超有名な判例です。

 最近ひさしぶりにマスコミでこの名前を聞きました。事件の元被告たちが再審請求したことがニュースになってるのです。朝日新聞は社説でも取り上げてました。

 1957年といいますから私生まれるだいぶ前ですが、日本の米軍基地の敷地内にデモ隊がちょっとだけ立ち入ったとして、日米安保関連の「刑事特別法」違反として起訴された事件で、その後のいわゆる60年安保闘争から全共闘の学生運動へとつながっていくきっかけにもなり、現代史的にも重要な事件とされています。

law137274.jpg 一審東京地裁は「駐留米軍は憲法第9条違反」として、被告全員を無罪としました。これに政府や米軍はビックラ仰天、検察は高裁すっ飛ばして最高裁に上告します。憲法判断の裁判はこんなことができるのです。すると最高裁は原判決を破棄差し戻し、結果「有罪、罰金2,000円」が確定したというものです。跳躍上告したのは政治的な影響が大きいので長期化を避けたいという思いからで、見事に国の思惑どおりの結果となりました。

 さて、この判例がなぜ重要とされてるのか。

 我が国は憲法9条でもって戦争はやっちゃダメということになってるので、国内によその国の軍隊が戦争のための基地を作るなんてことは普通に考えて憲法違反。したがって安保関係の特例法がそもそも憲法違反、そんな法律は無効。だから無罪、となるのですが、ここで登場するのが「統治行為」理論という法律用語です。

 これは、「国家統治の基本に関する高度な政治性を有する国家の行為については、法律上の争訟として裁判所による法律判断が可能であっても、これゆえに司法審査の対象から除外すべきとする理論(ウィキペより)」です。砂川事件で最高裁は、この「統治行為」理論を初めてもちだして「刑特法は憲法違反ではない、国会が決めた法律は守るヨロシ、だから有罪。罰金払え」とやってしもた。そして、その後日米同盟の憲法適合性が問われる問題では、この判断が定着してしまいました。P6214654.jpg

 大昔の事件、なんでいまさら再審請求なん?と思ったところ、どうやら最近の集団的自衛権に対する抗議の意味があるとのこと。判決は日本の自衛権にも言及したので安倍総理はこれを集団的自衛権行使容認の説明に利用してるんやとか。ふ~ん。

 報道のせいで長年忘れてた学生時代の記憶がよみがえり、書架から当時の憲法の教科書とりだして広げてみました。何年ぶりやろ? 線がいっぱい引いてあるし書き込みもたくさんあったりで、熱心に勉強してた痕跡がみてとれます。青春の思い出やなあ。(^^)

 当時、この「高度な政治性を有するがゆえ、司法判断に馴染まない」という理屈はどうしても納得できず、先生や友人と議論したことがあります。いまでもこの理論は間違いやと確信しています。「政治的に難しい問題は裁判しない」なんて言っちゃったら、そもそも三権分立の基本理念に背くやないですか。むしろ政治的に難しい案件やからこそ司法の出番があるんやないんですか。

 近年になって、砂川事件の裁判長やった最高裁 田中耕太郎長官が政府や米軍から指示があってその意に沿うようにへつらって判決を下したということが、いろんな資料から明らかになってきました。この男、その功労を認められて国際司法裁判所の判事に推薦されたり、勲一等に叙せらりたりとご褒美をいっぱいもらいました。しかしこの「世渡りタクミ」君、現在では厚顔無恥のレッテルを貼られて酷評されてます。当然です。やっぱり統治行為論はおかしいんです。

 司法の独立は近代国家の重要な基本理念ですが、我が国の近隣にはそうでない国があります。司法が政治や立法から独立せずとにかく「日本憎し」を国是としており、裁判所も条約を無視した判決を出してみたり、泥棒が日本から盗んでいった文化財を裁判所が「返すな」なんて言ったりします。また、共産主義の一党独裁国家では法律の解釈も裁判も党の意向によってどうにでもなります。日本が関係する裁判で、外交関係が良いうちは普通に判断するけど、悪化すれば日本に不利な判決を出すなど、つまり司法をも外交圧力の具としています。党こそが正義でありすべてはその意向にそって進めることを国家の基本原理とします。これらの国はそもそも「法治国家」という概念が希薄なのです。

 日本は、そんな前近代的な国に落ちぶれてはなりませぬ。集団的自衛権がいいのか悪いのかはおくとして、砂川事件の再審には注目していきたいと思います。

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katsuhiko

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