騎士団長殺し

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 村上春樹の最新作「騎士団長殺し―第1部 顕れるイデア編、第2部 遷ろうメタファー編」先月の発売からおよそ1カ月経ちました。初版130万部刷っても余裕で売りつくすとか。発売時点でミリオンセラー確定なんて、出版不況の救世主的存在にして、じつにバケモンみたいな作家さんです。わたしは新作発売を待ちわびるほどのファンではありませんが、氏の作品はたいてい読んでます。
 
IMG_7929.jpg 誰かが「出版界のボジョレー・ヌーボー」とか書いてましたが、現今、発売日の発売時間にカウントダウンで大騒ぎできるような作家は村上春樹だけです。芸能界やスポーツ界、いろんな分野がそうですけど、文壇にもそんな存在がいるってことは、わたしみたいなお祭り大好きミーハーにとってはやはり喜ぶべきことであります。
 
 先週の連休前に、書店で山のように積み上げられているのをふと見かけて、とりあえず買ってしまいました。超絶ミーハーを自認する身としては避けて通れないところなのです。で、先週の連休、とくに出かける予定もなかったので夜更かしして一気読みしました。今日はその感想を綴りますので、ややネタバレ注意です。
 
 まあ、なんというか実に村上春樹してます。穴の中からとか壁を抜けたりとかで、異世界に行っちゃって通り抜けて無事に帰ってくるストーリーが得意な村上春樹ですが、今回もやっぱりそれがあります。というかクライマックスでそんな展開となります。不思議な村上ワールドここに極まれりという感じです。
 
 見方によってはファンタジー小説と言えなくもない。だって、現実ではありえない超自然的な出来事について、種明かしや説明が最後まで無く回収されずに残ってしまうのです。前々作「1Q84」でもそうやったけど、極めて現実的なストーリーの進行からいきなりファンタジックな展開に突入します。「えっ、え?」ってなります。主人公「私」の前に「イデア」である騎士団長が登場する場面が、この上なく唐突なのです。シリアスな恋愛ドラマにいきなりゴジラが出現するようなもんです。
 
 推理小説やミステリーよろしく細かなディテールや伏線を見落とさないぞと思いつつ読んでるのに、ある時点から物理的整合性は意味を失い、独特の世界観が展開されていくのです。これぞ村上ワールドの真骨頂。
 
 主人公「私」は冒頭で妻から突然離婚を言い渡されてしまい、傷心の旅に出ます。その途上で起こった重要な伏線を経て、その後の実にいろんな出来事、展開の中で、結果的に自分は妻の中に幼き日に亡くした妹の姿を求めていたのだということに気がつき、めでたく妻とよりが戻ります。ハッピーエンド的な香りが漂いますが、実はその重要な展開すら、ひとつのエピソードにすぎません。この作品では村上が訴える「イデア」や「メタファー」というもっと重要な主題が重層的に展開されていくのです。
 
 面白かった。なんだかこれまでの村上作品をおさらいしているような感じがしました。かといって決して二番煎じ感はなく、むしろスケールアップしています。
 
 ネット上や新聞雑誌では「明らかに新境地を切り開いた」と書いているのがありますが、同感です。
 
 ちなみにこの書評、感想なんてのは、まあ実に多くの意見があるもんで、村上がいかに人気作家であるかということを如実に示しています。中には「駄作である」とけちょんけちょんに悪口書いてるのんもあります。センモンカさんたちは、文学的、芸術的な観点から作品に難癖つけてけなすことが仕事なんで仕方ないんでしょうけど、小説なんて、読んで面白ければそれでええやないですか。
 
 ところで、この作品続編があるんやないでしょか。お話の中にでてきて重要な役割を果たす「穴」が結局なんやったの、とか、戦前の大陸やヨーロッパの出来事についても、もちょっと詳しく書いてよって部分があったりで、なんとなくそんな気がするんです。「上・下巻」ではなく「第一部・第二部」なんてところからも、そんな兆しがありありと窺えます。第三部があるとしたら、実に、実に楽しみです。
 
 どうやら「新作発売を待ちわびるほどのファン」になってしまったようです。

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