文楽

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 「いもうとせやまふじょにわくん…何これ?」
 
 昨日、初めて文楽鑑賞に行ってきたのですが、うちの奥さん誘ったときの反応は、まあ予想どおりでした。
 
 正しくは、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)という演目です。以前、同じ国立文楽劇場で、生まれて初めて観た歌舞伎の演目が「義経千本桜」の三段目で舞台は吉野下市村。私のふるさとです。で、今回の初めての文楽(人形浄瑠璃)もふるさと吉野が舞台となる演目を選びました。というより、ふるさとゆかりの演目がかかったので、いい機会ということで観に行ったというわけです。IMG_6372.jpg
 
 文楽とは、本来は人形浄瑠璃専門の劇場のことですが、現在では一般に人形浄瑠璃そのもののことをいうようになりました。浄瑠璃のひとつである義太夫節を太夫が語り、それに合わせて人形遣いが文楽人形を操る、簡単にいえば人形芝居のことです。大阪で生まれ江戸期から明治にかけては歌舞伎同様に隆盛を極め大変な人気があったとか。しかし、今や古典芸能として国に保護されてます。ユネスコの「世界無形遺産」にも登録されてるそうです。
 
 さて、昨日の演目「妹背山婦女庭訓」は数ある文楽の演目のうちでも実にメジャーで人気も高いそうです。しかも吉野川を挟んで対峙する妹山と背山といえば、まさにわたしの帰省先のすぐ近所です。いやまして興味が募ります。
 
 上方落語には浄瑠璃をモチーフにしたネタがいくつかあり、桂米朝師匠や枝雀さんでよく聞いてたし、特に米朝師匠は例によって分かりやすく説明しながら噺を進めてくれるので、浄瑠璃とはどういったものかということは、おぼろげながら知ってはいました。で、実際に聞いてみると想像以上に完成されたすばらしい芸術でした。
 
 およそわが国の伝統芸能は、歌い物と語り物に大別させるとか。長唄、小唄や地歌などは歌いもので、浄瑠璃や常磐津節、清元節、浪曲やなんかは語りものです。簡単に言うと物語に節をつけて話していくわけですが、言葉の長短、強弱や抑揚によって、場面場面の風情や登場人物の心情を実に巧みに語り分ける、その技量たるやなるほど能や歌舞伎同様に人間国宝を多く輩出する至高の芸事といえるでしょう。うん、すごい。
 
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 例によって様式美を愛でる伝統芸能ですので、ストーリーのつじつまや歴史考証やなんかはつっこみどころ満載です。「妹背山…」の登場人物は蘇我蝦夷子(蝦夷やなくて「えみじ」と読ませるあたり(笑))入鹿親子や天智天皇、藤原鎌足など古代の設定やのに、舞台装置や衣装やなんかは明らかに江戸時代のそれです。いってみれば、警視庁七曲署にいる大岡越前守が、パトカーに乗った十手持ちちょんまげの親分に無線で指示出してるようなもんです。
 
 さらに、実際の妹背山付近には桜なんて全くないのに、舞台の背景画は吉野川両岸満開の桜。そもそも吉野川右岸の妹山は大和の国、左岸の背山は紀伊の国で川はその国境という設定ですが、もちろんこれもウソで、ほんとはどっち側も大和です。最後の場面では、切腹した主人公が苦しんでるのに、かたわらで父親が敵対してきた家の女主人、つまりヒロインの母親との和解の情況を延々と演じ続けます。「んなことやってんと、はやいこと助けてやれよ」とは、うちの奥さんの素直な感想です。しかし、そこは言ってはいけない。あくまでフィクションであり、ファンタジーとして楽しむ必要があるのです。IMG_6394.jpg
 
 反目しあう家の男女が恋に落ち、最後にはどっちも死んじゃう悲劇ということで、この演目のストーリーは、よく「ロミオとジュリエット」に例えられます。しかし、実は見どころ違うのであって、両家の親の、子を思う実に深淵な情愛こそが主題であり、それによって圧倒的な悲劇として観るものに訴えかけてくるのです。その心情を太夫の語りと人形遣いの絶妙の至芸が見事に表現していきます。ものすごい迫力です。実際に鑑賞してそのすばらしさを満喫しました。
 
 歌舞伎もそうでしたが、休憩時間に座席でお弁当食べられるのがいいですね。コンサートやミュージカルではこうはいかない。日本の伝統芸能が市井から発展し今日に至るひとつの証左といっていい。けど、願わくばごはん休憩30分はちょっと短い。1時間あったら館内のレストランや劇場周辺のお店でゆっくりお食事できるのにとも思いました。
 
 人形浄瑠璃の演目の多くは時をたがわず歌舞伎に移植されて、こちらは人形やなくて実際に役者が演じ、セリフも太夫が語るんやなくて役者が自分の口で言うわけです。江戸時代には人気を二分した両者、平成の現代においても依然としてそれなりの人気を保っています。以前にも書きましたが、伝統芸能でも何でも、本当のホンモノは誰かがことさらに保存しなくたって残っていくものなんです。橋下改革の一環で市からの補助金が減らされた文楽ですが、今日も観客は大入り満員。大丈夫です。大阪の文楽は連綿と未来に伝えられていきます。

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